大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)82号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕当裁判所は、本件審決が、五酸化りんの添用を実質上本願発明の必須要件を構成するものとは認められないとしたのは本願発明の要旨の認定を誤つたものである旨の原告の主張は、次の理由により失当として排斥すべきものと考える。

1 本願発明の明細書に、審決の指摘するとおり、「イルメナイトのようなある種のチタン鉱石は通常少量のP2O5を含有しているが、このはP2O5はTiO2の加水分解物中にほとんど完全に連れこまれる。従つて場合によつてはP2O5の添加を必要としないが一般には洗滌後加水分解されたTiO2に少量のP2O5を加えるのが有利である。」旨記載されていることは、原告も認めて争わないところで、右記載に徴すれば、本願発明は、イルメナイトのような五酸化りんを含有しているチタン鉱石を酸化チタンの原料として用いる場合にはとくにあらためて五酸化りんを積極的に添加する必要がないとしているものというべきである。しかも、イルメナイトが酸化チタン顔料の製造原料として広く用いられており、本願発明もそのことを予定しているものであることは、本願発明の公報中の実施例の記載によつてこれを認めることができ、この認定に反する証拠はない。以上認定の事実に叙上甲第二号証、とくにその特許請求の範囲の記載を総合して者えると、本願発明は、少量の五酸化りんを「存在させること」をその構成要件としてはいるが、五酸化りんを「加水分解すべき溶液に添用すること」を常に必須の構成要件とするものではないと解するのが相当である。

2 もつとも<書証>によると、従来酸化チタン顔料の製造過程において五酸化りんの存在はルチル化を阻害するものと考えられていた事実が認められるが、さりとて、この製造過程において五酸化りんを全く除去すべきものとまでされていた事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、前記甲第七号証には、「それ故完全にアナターゼをルチルに転換するのが望まれるとき、我々は次の事項がこの発明にとつて不可欠であることを見い出した。すなわち、アナターゼ加水分解物は実質上純粋な状態にあるか、または完全に硫酸塩を除去していなければならないこと、そのH2SO4(硫酸)含量は好ましくはTiO2一〇〇部当り約1.0部以上多くてはならないこと、またそのH3PO4(正りん酸)含量はTiO2一〇〇部当り約0.5部(これを五酸化りんに換算するとTiO2一〇〇部当り五酸化りん0.7部であることは当事者間に争いがない。)以上多くあつてはならないことである。」との記載があることが認められる。この事実と、先に認定したイルメナイトのような五酸化りんを含有するチタン鉱石が酸化チタン顔料の製造原料として広く用いられていた事実および前顕甲第二号証を総合して考えると、従来技術においても酸化チタン顔料の製造に際し少量の、少なくともTiO2一〇〇部当り0.7部以下の五酸化りんの存在は許容されていたものであることを推認することができないわけではない。しかも、他方において、本願発明において存在を要件とする五酸化りんの許容量はTiO2に対して最高0.5%(重量)なるべくは0.1―0.2%、換言すればTiO2一〇〇部当り0.5部、なるべくは0.1―0.2部であることが認められる。そうすると、本願発明は、五酸化りんの存在の要件の点において、在来技術と格別の相違はないといわなければならない。

3 以上のとおりであるから、本件審決が、五酸化りんを加水分解すべき溶液に添用することが本願の必須の要件を実質上構成するものとは認められないとしたのみで五酸化りんの存在の要件について格別の判示をすることなく、本願発明は結局各引用例から容易に発明できたものと認定したことは、その理由の説示において不十分であるとのそしりをまぬがれないが、それをもつて違法とまでいうことはできない。

4 したがつて、本件審決が本願発明の要旨の認定を誤つたという原告の四の(一)の主張は採用することができない。

(二) 原告主張の四の(二)の主張について。

1 原告の主張するとおり、本願発明がルチル化促進の種を加水分解前とか焼前の二回にわけて添加し、ルチル型酸化チタンを選択的に製造する方法であることは、冒頭に判示した当事者間に争いのない本願発明の要旨に徴し明らかである。

そして、また、第二引用例が、ルチル型およびアナターゼ型のいずれの酸化チタンをも任意に製造しうる方法において使用される核化剤に関するものであることは<証拠>によつて認められる。

2 原告は、第二引用例においては生成酸化チタンがルチル型になるか、アナターゼ型になるかは、加水分解前に添加される核化剤以外の因子によつて決定されるもので、この点において本願発明と技術思想を異にすると主張するので、この点につき検討する。

第二引用例は、加水分解前に添加する実施例一の核化剤(加水二酸化チタン水性スラリー)がそれ単独でもルチル化剤たり得ること、換言すれば、右実施例一の核化剤がルチル化促進の種となり得ることを教示していると認めることができる。

そして、第二引用例においても、加水分解前とか焼前の二回に核化剤を添加することが開示されていること自体は原告も争わないところであり、しかも第二引用例の実施例二において実施例一の核化剤(換言すれば、ルチル化促進の種)を加水分解前に添加していることが認められる。したがつて、第二引用例の実施例二は、ルチル化促進の二重種付けを開示するものということができる。

それゆえ、ルチル化促進の種を加水分解前とか焼前の二度に添用することが第二引用例(実施例二)に記載されているとした審決の認定をもつて、第二引用例の解釈を誤つたものということはできない。(むすび)

三 以上説述したとおりであるから、本件審決にその主張のような違法のあることを理由にその取消を求める原告の本訴請求は、結局、理由がない。

よつてこれを棄却する。

(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!